「冬場になるとポンプが動かなくなる…」
「オイルの種類が多くて、結局どれを選べばいいか分からない」こうしたトラブルの経験はありませんか?
真空ポンプ(特に油回転式)において、オイルの粘度は、ポンプの寿命と性能に大きく影響する要素の一つです。
ここを間違えると、真空度が上がらなかったり、最悪の場合故障したりすることも。
この記事では、「VG46」や「VG68」といった数値の意味から、使用環境や気温に合わせた失敗しないオイル選定のコツを、真空機器のプロが分かりやすく解説します。

目次
オイルの粘度選びは「温度・用途・メーカー推奨」の3つで決まる
先に結論をお伝えすると、最適なオイル粘度は「これ!」と一つに決まっているわけではありません。
以下の3つの要素を組み合わせて判断する必要があります。
1.使用温度(周囲の気温)
設置場所は暑いですか?それとも冬場は氷点下になるような寒い場所ですか?
2.プロセス(吸引内容)
水分や汚れ(粉塵・スラッジ)を多く吸い込みますか?それともクリーンな空気ですか?
3.メーカー指定
基本はメーカーが指定する純正品・推奨粘度を守ることが大原則です。自己判断での変更はリスクを伴います。
この3つのバランスが崩れた時に、トラブルは発生します。
真空ポンプのオイルの「粘度」とは?性能を左右する基礎知識

カタログやオイル缶に書かれている記号の意味と、粘度がポンプに与える影響を解説します。
ドロドロかサラサラか?「VG46・VG68」
真空ポンプオイルには「ISO VG(アイエスオー・ブイジー)」という粘度グレードが使われます。
数字は「40℃の時のオイルの動粘度」を表しており、数字が大きいほど「硬い(ドロドロ)」、小さいほど「軟らかい(サラサラ)」になります。
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VG32
比較的サラサラとした粘度で、で採用されることが多い粘度になります。 -
VG46
標準的な粘度として、多くの油回転式真空ポンプで指定されることが多い粘度です。 -
VG68
やや高めの粘度で、大型ポンプや気密性が重視される用途で採用されるケースがあります。
粘度がポンプの「真空度」と「寿命」に与える影響
オイルの粘度は、ポンプ内部での「密封(シール)」と「潤滑」に深く関わります。
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粘度が高い(硬い)場合
隙間を埋める力(シール性)が高まるため、真空度は良くなりやすいです。
しかし、粘度の分だけ回転への抵抗が増えるため、モーターへの負荷が大きくなります。 -
粘度が低い(軟らかい)場合
回転抵抗が少なく、スムーズに回りやすくなります。
ただし、隙間から空気が漏れやすくなるため、到達圧力(真空度)は悪くなる傾向があります。
⚠️温度が変われば粘度も変わる!
真空ポンプのオイル選定で覚えておいていただきたいのが、「オイルは温まるとサラサラになり、冷えると固まる」という性質です。
「VG46」という基準値はあくまで「40℃」の時の話。冬場の朝と、連続運転中の夏場では、同じオイルでも全く別物のように性質が変わってしまいます。
ケース別!気温や用途に合わせた正しい粘度の選び方
では、具体的にどのような基準で選べば良いのでしょうか。よくあるシチュエーション別に解説します。
冬場や寒冷地(粘度が高すぎて失敗するケース)
よくある真空ポンプの粘度トラブルとして「冬の朝一番にブレーカーが落ち、ポンプが動かない」というものがあります。
寒さでオイルが水飴のように固まり、モーターが回ろうとしても回れず過負荷(オーバーロード)になってしまうのです。
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対策
建屋内の温度管理をする、オイルヒーター(投げ込みヒーター)で温める、または専門家に相談の上で「ワンランク粘度の低いオイル(VG68→46など)」に変更します。
夏場や連続運転(粘度が低すぎて失敗するケース)
ポンプが高温になりすぎると、オイルが水のようにシャバシャバになります。
するとシール性(隙間を埋める力)が保てず真空度が下がったり、油膜切れを起こして部品が摩耗したりします。
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対策
冷却ファンや水冷の流量を見直してポンプを冷やす、または熱に強い「合成油」や粘度の高いグレードを検討します。
高真空や特殊ガスを扱う場合(粘度だけで選んではいけないケース)
粘度だけで選んではいけないケースもあります。
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高真空用途(油拡散ポンプなど)
粘度よりも「蒸気圧」(オイル自体が蒸発しにくいかどうか)が最重要です。 -
食品・医薬・腐食性ガス
一般的な鉱物油ではなく、耐食性の高いフッ素系オイルや、食品グレード(NSF規格)のオイルが必要です。
関連記事:真空ポンプの種類を徹底解説!主ポンプから高真空ポンプまで仕組みと用途を紹介
その不調、オイルのせいかも?粘度が合わない時のトラブルサイン
ポンプの調子が悪い時、以下の症状が出ていたら粘度ミスマッチの可能性があります。
⚠️粘度が高すぎる(硬すぎる)時のサイン
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スイッチを入れてもモーターが唸るだけで回らない。
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起動直後にブレーカーやサーマルリレーが落ちる。
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冬場の朝だけ調子が悪い。
⚠️粘度が低すぎる(軟らかすぎる)時のサイン
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ポンプは回っているのに、以前より到達真空度が悪い。
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「ガラガラ」「キンキン」といった金属同士が当たるような異音がする。
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排気口から出るオイルミスト(白煙)が多く、オイルの減りが異常に早い。
関連記事:真空ポンプが動かない原因と修理の流れ|故障時に確認すべきポイント
オイル管理と交換タイミングの目安

最適な粘度のオイルを選んだら、あとは良い状態をキープすることが大切です。
現場でできる!オイルの「汚れ・色・ニオイ」チェック
オイルレベルゲージ(点検窓)を定期的に覗いてみてください。
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白く濁っている
水分が混入し、乳化しています。潤滑能力が落ちている危険な状態です。
また、頻繁に起こるようであれば、オイル交換だけでなく、吸気側に「水冷式トラップ」を追加する対策を取る等の根本対策が必要になってきます。 -
真っ黒になっている
スラッジ(汚れ)や酸化劣化が進んでいます。 -
量が減っている
規定値を下回ると冷却・潤滑不足になります。
オイル交換時期はどう決める?
取扱説明書に「3000時間ごと」などの記載がありますが、これはあくまで「クリーンな環境での目安」です。
水分や反応性ガスを吸引する過酷なプロセスの場合は、メーカー推奨よりも早めの交換が鉄則です。
「色が変色したら交換」といった自社ルールを決めることをお勧めします。
よくある質問
Q.粘度の違うオイル(VG46とVG68など)を混ぜても問題ないですか?
A.基本的にNGです。
粘度調整のために混ぜる方がいますが、メーカーやグレードが違うと添加剤の成分バランスが崩れ、性能低下や予期せぬスラッジ発生の原因になります。
Q.冬だけ粘度の低いオイルに変えても大丈夫ですか?
A.可能ですが、メーカーへの確認を推奨します。
VG68指定のポンプにVG46を入れると、真空度が多少悪くなる可能性があります。その低下が許容範囲内であれば、有効な冬場対策となります。
Q.ホームセンターの潤滑油じゃダメですか?
A.真空ポンプには使用を避けてください。
一般的な機械油は「蒸気圧」が高いため、真空下ではオイル自体が蒸発してしまい、真空になりません。
「真空ポンプ専用オイル」を必ずご使用ください。
真空ポンプのことで迷ったらプロに相談を
真空ポンプオイルの粘度選定は、「純正を使えば問題ない」というケースもあれば、温度条件・プロセスガス・稼働負荷など、現場の状況に応じて見直しが必要になるケースもあります。
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「今のオイルがプロセスに本当に合っているのか確認したい」
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「冬場の立ち上がり不良や、オイル劣化が早い理由を知りたい」
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「前処理や周辺設備を含めて、もっと安定運転できないだろうか?」
そんなときは、一度三弘エマテックへご相談ください。
私たちは特定メーカーに依存しない立場だからこそ、
・オイル選定の妥当性チェック
・前処理(トラップ・配管)などの改善提案
・装置全体の運転条件の最適化
といった“現場全体を俯瞰した総合サポート”が可能です。
「なぜトラブルが起きるのか」「どうすれば改善できるのか」原因と対策を整理し、お客様の現場に最適な解決策をご提案します。