「真空だと水は100℃より低い温度で沸騰する」と聞いたことはありませんか?
これは、真空技術の基本であり、様々な分野で応用される重要な原理です。
この記事では、真空で沸点が下がる理由から、圧力ごとの沸点がわかる早見表、そして身近な活用例まで、わかりやすく解説します。
真空で沸点が下がる仕組み
まず、沸騰とは「液体の中から蒸気(泡)が外へ出ようとする力(蒸気圧)」と、「外から液体を押さえつける力(周囲の圧力)」が綱引きをしているような状態です。
この「外から押さえつける力」を、鍋のフタの重しだとイメージしてみてください。
- 通常の状態
重いフタ(1気圧)が乗っているので、しっかり加熱して強い力(100℃の蒸気圧)で押し返さないと沸騰できません。 - 真空の状態
この重しを軽くする(=圧力を下げる)操作です。
重しが軽ければ、弱い力(低温の蒸気圧)でもフタを押し上げて沸騰できますよね。
これが、真空で沸点が下がる理由です。
- 1気圧(atm) = 101.3 kPa = 1013 mbar = 760 Torr
※mbar(ミリバール)
1 mbar = 0.1 kPa。気象や真空の分野で使用されることがあります。
※Torr(トル)
1 Torr ≒ 133.3 Pa ≒ 0.133 kPa。真空度を示すのによく使われます(760 Torr = 1気圧)。
【早見表】圧力と水の沸点の関係
実際に圧力が下がると、水の沸点はどのくらい変化するのでしょうか。代表的な数値を表にまとめました。
周囲の圧力(目安) | 沸点 (°C) |
101.3 kPa (常圧 / 760 Torr) | 100 °C |
50 kPa (約0.5気圧 / 375 Torr) | 約 81 °C |
20 kPa (約0.2気圧 / 150 Torr) | 約 60 °C |
10 kPa (約0.1気圧 / 75 Torr) | 約 45 °C |
5 kPa (約0.05気圧 / 38 Torr) | 約 33 °C |
※上記は代表的な近似値です。
意外と身近?沸点低下が利用される例
この現象は、私たちの生活や産業に広く応用されています。
- フリーズドライ食品
真空技術を使い、凍らせた食品から水分だけを低温で沸騰(昇華)させて乾燥させます。熱を加えないため、栄養や風味を損なわずに長期保存が可能です。
- 減圧調理・濃縮
熱に弱い食品(ジャムなど)や医薬品を、風味や有効成分を壊さずに低温で加工・濃縮するために利用されています。 - 高地での炊飯
富士山の山頂など標高が高い場所では気圧が低いため、水が100℃未満(約87℃)で沸騰してしまいます。
そのため、お米にうまく火が通らず、芯が残りやすくなります。
沸点の計算方法
早見表よりも正確な沸点を知りたい場合、実務ではアントワン(Antoine)式という計算式がよく用いられます。
これは物質の種類や温度範囲ごとに決められた係数(アントワン定数)を使って、圧力から沸点を精密に計算する専門的な手法です。
アントワン式の数式
- 蒸気圧(沸点における圧力)
- →沸点(温度)
- アントワン定数(物質の種類や温度範囲ごとに決まっている固有の係数)
よくある質問
Q1. 水は常温(20℃)でも沸騰させられますか?
A1. はい、できます。圧力を約2.3 kPa(約17 Torr)まで下げてあげれば、常温の水でもブクブクと沸騰します。
Q2. 真空で沸騰させると、調理時間は短くなりますか?
A2. いいえ、多くの場合で調理時間は長くなります。沸騰する「温度」自体が100℃より低くなるため、食材に火が通るのにはかえって時間がかかります。あくまで「低温で加工したい」場合に使う手法です。
まとめ
真空(減圧)状態では、液体を押さえつける力が弱まるため、沸点が下がります。
この原理は、フリーズドライや低温調理で私達の生活に生かされているのです。
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